生物を形作り、その活動を支える物質は大きく三つの階層に位置付けることができます。情報の流れの上位から、遺伝子タンパク質代謝物質です。代謝物質は生物の在り様(表現型)を直接制御する位置にあります。遺伝子タンパク質の影響を受けて量的、質的に変動し、また、食事や薬物の摂取、腸内細菌のような共生生物によってもたらされ、生物内外の環境から影響をうけています。

脂質」は水に難溶の代謝物質の総称で、膜形成による細胞の区画化、エネルギーの貯蔵、細胞内外のシグナル伝達に利用されています。遺伝子タンパク質と比較すると解析手法が一般化されていないことなどもあり、脂質は研究が遅れている生体分子群ということができます。それだけに、新しい生命原理の提示や、疾患の克服に役立つ知見が多く眠っている研究対象であると考えています。実際に、質量分析技術の向上によって、最近になって新規生理活性脂質の同定も相次いでいます。私たちの研究室でも、がん、神経疾患、炎症疾患などで変動する新規構造を持つ脂質を同定しており、生成酵素、分解酵素の同定、生理機能と作用機序の解析を進めています。